★★★★☆ ポストジブリはこっち!

■徹底的に丁寧な演出

この映画の大きな特徴は、つ一つのキャラクターの動きや表情が徹底的に丁寧に練られていることだ。
例えば、西宮が石田と再会してどんな表情をするか迷っているシーンでは、
最初に愛想笑いをしそうになり、それはやめろと言われたことを思い出して迷った後、ちょっとふくれたような顔になり、逃げ出す。これが集中しないと見逃すような速度で描かれる。
また、猫カフェのチケットを眺めているシーンでは、引いていく間に、永束が見つけてウヒョー!と反応する姿が少しだけ映る。これだけで「永束の強い希望で行く展開になるんだ」と伝えてくる。
何度も引き合いに出して申し訳ないが、バケモノの子やFateUBWとは真逆だ。
長い原作をまとめる上でどう削っていくかを考えぬいた結果、美しく簡潔な演出が仕上がったのだと思う。


■まるで総集編のような・・・

京都アニメーションに限らず、深夜アニメはたくさんの総集編を上映し、お布施を集めている。
総集編はある意味ファンサービスのようなもので、気持ちの良いシーンを大画面で見せるのが目的だ。
そういう映画を作りすぎて、今作も総集編みたいに作ってしまったように思えた。

中でも残念だったのは、PVにもある感動シーン「つき!(好き!)」と叫ぶ場面。
これを早い段階でやってしまう。ボーイミーツガール的な即落ちである。
とはいえ、映画1本に原作を収めるにはここでやるしかない。
オリジナルだったら終盤に持ってきたんだろうが、原作から変えるのも良くない。
そういうことが多々あり、1つ1つのカットは丁寧なのに、ストーリー成立させる為のカット数が決定的に足りないというチグハグな状態になってしまっていた。
逆に感情の描き方が丁寧だからこそ、どうしてここだけ唐突なの?と感じてしまう。
(「君の名は。」みたいな映画なら瀧と三葉が惹かれ合うの?まあそうでしょう、となったのだが)

解決策としては、2篇に分けるくらいしかなかっただろう。
山田監督の責任ではないかもしれないが、ここはぜひ前後編かTVシリーズでやってほしかった。

■ポストジブリはこっち!

今作はどうしても君の名は。と比べられる運命にある。
作品の方針が真逆であり、どちらが良いとは言いづらい。

君の名は。では観客は様々な疑問を抱く。
日記アプリ使っててなんで年号がわからないの?とか、日付と曜日のズレはどうなった?とか、
主人公だけ被災地の地名にピンとこないって、建築系志望なのにどうなの?とか、
そういう様々な疑問を、いい感じの雰囲気と勢いと曲とセリフときれいな背景ですべて吹き飛ばす。
こまけえことはいいんだよ!あぁ、感動した!というスッキリした映画である。
岡田斗司夫が「バカでもわかる映画」と言っていたが、見ているとバカになる映画とも言える。
見ているとバカになるというのは、やはり岡田斗司夫が「天元突破グレンラガン」に対して言っていたセリフで、つまりこれは褒め言葉だ。

個人的に、新海誠を「ポストジブリ」などと言う人はキービジュアルしか見ていないんじゃないかと思う。
人物描写が不得意で、背景を緻密に描く。音楽とCGと合わせて感動させる。
宮﨑駿とは全く正反対である。
宮﨑駿にあんな正確な背景を提出したらぶん殴られると思う。

一方で聲の形では、日常の流れ、感情の揺れ動き、そういうものが緻密に配置されており、
穏やかに心に沁みて感動するような映画だった。
山田監督に限らず、京アニのアニメでは感情の動きに重きを置く傾向がある。
ごまかさず、空想の世界を切り取ってスケッチしたような人物たちは、宮﨑駿の得意技でもある。
あと、アニメーションの動きは圧倒的に聲の形が優れていた。

優劣つけ難いが、少なくとも、ポストジブリに最も近いのは京都アニメーションだ。
今作でまた1つ確信させていただきました。
響け!ユーフォニアム2期をよろしくお願いいたします。

■舞台挨拶

山田監督が想像よりずっと若い人で驚いた。
今作は「物質としての音」をかなり凝って設計しているらしい。
劇伴もいろいろ工夫していて、現在好評発売中!
劇場の音響でぜひまた観て欲しい!
などと言っていて、声優よりも面白い人だった。