★★★★☆ 新海誠の集大成・・・だけど
■新海誠の集大成
すべて1人で作ったというアニメ映画で一躍有名となった新海誠監督。以前は池袋の劇場まで行かないと観れないくらいマイナーな映画を作っていたが、
おい、平田!が潜伏中に秒速5センチメートルを観ていたとか報道されたあたりから注目され始め…
いつのまにか今作では、「感動しました!」「泣けます!」とかいうCMを打たれるようになっていた。
新海誠といえばポエミーな独り言と美しい映像、そして細かいことを気にしない主題歌のPV的な作風だ。
例外が「星を追う子ども」。ひたすら期待して劇場まで観に行ったが、ゲド戦記みたいな映画だった。
その後の「言の葉の庭」は御苑キレイだなァ…キャラはムカつくなァという感じ。
そして今作だが、新海誠の集大成であり、代表作と言って良い素晴らしい映画だった。
「星を追う子ども」みたいなご神体と「秒速5センチメートル」みたいな街・電車での場面、
そして「言の葉の庭」みたいな雨を降らせたり、セルフオマージュのような場面が散りばめられ、
監督自身が持てる能力と積み上げたものの全てをつぎ込んだような印象を受けた。
「忘れたくない!」「忘れちゃいけない!」「「君の!」」 (適当です)
のような新海節と主題歌と挿入歌に合わせた見事なタイムラプスPVは健在。
映像美と歌とセリフのゴリ押しで感情がメリメリと動かされるのを感じた。
■ラストシーンは新海誠らしくないような・・・
上述したように新海誠監督の集大成だ!という作品でありながら、いや、あるからこそ(ミニ新海節)ラストシーンには「本当に新海誠監督が作ったのか?」と感じた。
今作の設定では、どうやらお互いの記憶が消えてしまうらしい。まるで夢のように。
でも、なにかを忘れている気がしたり、寝起きに涙が出ていたりする。
そんな状態で、お互いのことを忘れて大人になり、電車ですれ違って階段で再会、というラストだが
秒速5センチメートルを見た人なら、「あ、これ見たことあるやつだ!」と感じただろう。
ハッとなり、振り返って、やっぱりやめとこう、おしまい・・・・・・って、話しかけるんかーい!
なんか、話しかけて、現実で知り合っちゃったら台無しだと思う。
上手く言えないけど、最後に再会させちゃったら、この主人公たちだけの現実になってしまう気がした。
ひと夏の入れ替わり体験、夢のように薄れていく記憶、消えていく証拠、
奇跡的に村民が避難していた村、全滅していたかもしれないというかすかな記憶、
寝起きに流れる涙、子供の時にだけ誰にも訪れる不思議な出会い、
夢だったかもしれない、でも気持ちだけは心に刻み込まれて、村のことが気になったりする。
誰にでもあるでしょ、行ったこともないのになぜか懐かしく感じるような場所が、
いつ手に入れて、なんで持ってるのかわからないようなものが、
寝起きに涙がでたり、なにかを探し続けているような気がすることが。
そういう風に余韻を残すべき映画だったんじゃないかなあ。
最後に組紐かなんかだけ見つかって、「これ、なんだろう?・・・あれ、涙が」みたいな、
鏡を見た時になぜかハッとして、「君の名は。」って呟くような、そういう終わりにしてほしかった。
秒速5センチメートルをああやって終わらせた監督が、なぜ今回は話しかけてしまったのか分からない。
■新海誠監督、この後どうするんだろう
今作はこれまでの作品すべてを総括するようなものだった、というのは上で述べた。さらに、執拗に繰り返される電車のドアが閉まるアングル、男女入れ替わっておっぱいを揉む、
足の描写がやけにいやらしい、部屋に置かれている機械類がマニアック、などなど
新海誠監督の個人的なフェチも十分に盛り込まれていたと思う。
だからこそ、だから私は(ミニ新海節2)、この先、新海誠監督が何を作るのかわからなくなってしまった。
1から新たなジャンルに挑戦するのか?
あるいはファンタジーに再挑戦するのか?
ポストジブリとか言われているが、ポストジブリとしてはやっぱり宮崎吾朗監督のほうが上だと思う。
下手にファミリー向けに押されて、「バケモノの子」みたいなとんでもない映画だけは作らないで欲しいな。
■CMがひどすぎる
「感動しました!」「泣けます!」っていうCMは本当にやめてほしい。確かに、この映画は感動するし、涙も流れるかもしれない。
でも、「泣ける」映画とはまた違うでしょ。
CMを作った関係者の感性のワンパターンさにがっかりします。