★★☆☆☆ 移ろいがちな日常を大切に生きるアニメ
商店街の餅屋に育ったたまこは餅が大好き、商店街も大好き。
そこでの1年間を12話かけて描いたアニメである。
実は、放送当時はふざけた鳥が出てきた時点で見るのをやめてしまった。
境界の彼方にハマった流れで、つい最近見る次第となった。
このアニメは1言で言うと日常系のアニメだ。サザエさんが1番近い。
だが、よく言われる「日常系アニメ」とは一線を画する。
よく「日常系アニメ」というが、ごちうさや、のんのんびより辺りのアニメは「日常」なのだろうか?
あんな日常、見たことがない。
見たことがないどころか、彼女たちがカメラの外で暮らしている姿が全く想像できない。
虫カゴを覗いて、偽物の世界で「これがかわいいんでしょ?」とデザインされた人形を見ているだけに思える。
このアニメも萌え要素はもちろんあるが、まあデフォルメという範囲で許容できる範囲となっている。
もちろん現実には喋る鳥も、あんな女の子もいないわけだが、そのくらいはいいと思う。
少なくとも、このアニメではキャラクターが自分から動いているように見えた。
良いと思ったのは、12話で1ヶ月ずつ時間が進んでいったこと。
毎日がドラマチックではないけど、たまには何事かが起きるという構成は結構新鮮だった。
キャラクターが生きているからこそ、各話間で時間が過ぎても平気なのだろう。
このアニメのメインストーリー(と呼べるかはわからないが)は以下の2つ。
1.変わらない日常を守る
2.死別したお母さんとの思い出を見つける
変わらない日常といっても、日常は虫カゴではないし、当然変わるものである。
物語の終盤では、たまこがどっかの国のお姫様になるとかいう話が出る。
その時のたまこは明らかに気もそぞろという感じになっていた。
皆が「お姫様になるの!?どうするの!?」と言っている中で、
たまこだけが商店街のスタンプカードの話を続け、変化に抵抗している姿がとても印象的だった。
「降って湧いたような話よりも、今まで積み上げてきたもののほうが・・・」
というセリフもさらっと言われるのだが、その裏側にあるたまこの気持ちの強さは十分に感じることができる。
お母さんの話にしても、普通はお母さんとの思い出とかをたくさん描くはずだが、
このアニメでは一切そういうシーンがない。だけど、たまこの気持ちは十分に伝わってくる。
そういう表現がとてもうまいアニメだと思った。
良いところはあるものの、バトン部の話はそんなにいらないと思うし、もう一つという印象は否めない。
これは好みの問題かもしれないから、試しに見てみると良いと思う。
だが劇場版、お前はだめだ。
もち蔵との恋愛を描かなかったからこそのTV版ではないのか。
鳥は最初と最後だけ出しておけば良いと思ったのか。
商店街の人との関わり、信頼はどこに行ったのか。
まさに「降って湧いたような話」とはこの映画版だと思う。
積み上げてきた日常はかけがえのないものであるという、TV版の思いを台無しにする映画だった。